こんにちは、管理人のひかるです。
短編小説のいいところは、サクッと短時間に読めること。
好きな小説家の意外な一面を見られたり、初めて読む作家を短編でお試し読みしてみたり。
今回の記事では、カット・メンシックさんがイラストを手掛けた、村上春樹さんの短編4作品を紹介します。
「村上作品を初めて読む人におすすめするなら」という視点でランキングにしました!
- 「どの作品を読めばいいのか悩む…」
- 「村上春樹の長編を読む前に短編を読んでみたい」
というかたの参考になれば幸いです。
村上春樹×カット・メンシックの短編4作品とは?
東ドイツ生まれのイラストレーター、カット・メンシックさんが絵を添えた、村上春樹さんの短編が新潮社から出版されています。
- 『ねむり』
- 『パン屋を襲う』
- 『図書館奇譚』
- 『バースデイ・ガール』
の4作品です。
カット・メンシックさんのイラストは幻想的で、村上作品の不思議な世界を引き立てています。
それぞれの作品に赤、ダークグリーンなどの基調カラーに、ゴールドやシルバーが加わり華やか。
思わず手に取って眺めてみたくなる装丁になっています。

表紙やイラストも含めて、1つの作品だと思えます
30年近く前の短編もありますが、カット・メンシックさんの絵をつけて再リリースするにあたり、村上さんが加筆修正を加えています。
村上さんは、『ねむり』のあとがきで次のように書かれています。
どうせ新しいかたちで出版されるのなら、良い機会だからこの短編小説にいくらか手を入れてみたいとも思った。内容を大きく書き直すのではなく、文章的に「ヴァージョンアップ」してみたいと思ったのだ。短編小説に関しては僕はよくそういうことをする。長編小説に手を入れることは一切しないが(そんなことをしたらバランスが崩れてしまう)、短編小説には現在のポイントから書き直す余地が往々にしてあるからだ。
『ねむり』より引用
昔の作品を読み返してみると、村上さん的に「今の僕ならこう書くのに」という箇所があるのでしょう。
ですので、初めて村上作品を読む人だけでなく、かつてオリジナル版を読んだ人も楽しめるようになっています。
今回の記事では、「初めて村上作品を読むなら」という視点で、これら4作品を勝手にランキングにしてみました。
1位『パン屋を襲う』
村上春樹さんの小説を初めて読む人には、『パン屋を襲う』が1番おすすめです。
というのも、結末がはっきりしていて、スッキリ読み終われるからです。

他の作品は「え?どうようこと?」と思わせる、モヤッとした終わり方をします
『パン屋を襲う』のあらすじはこんな感じ↓
腹を減らした「僕」は相棒と、町のパン屋を襲撃する。パンを強奪するかわりに、店主からワグナーを聞くことを持ちかけられる。数年度、結婚した「僕」と妻を、突然深夜に空腹感が襲う。かつてパン屋を襲撃したことを、「僕」は妻に話してしまう。すると、「僕」の呪いを解くべく、再びパン屋を襲うことに。しかし、深夜に開いているパン屋はなく、マクドナルドを襲撃する。
「え?コメディー?」と思うようなストーリーですが、実際、村上さんのユーモアがたくさん詰まっています。
東京03にコントにしてもらったら、キングオブコントで賞が取れそうな(笑)
「文学」というより、エンターテインメントとして読んでもOKな作品です。
不気味にほほ笑む、ドナルドの表紙が目印!
※『パン屋を襲う』のレビュー記事はこちらです↓
2位『ねむり』
『バースデイ・ガール』とどちらを2位にしようかと思ったのですが、『ねむり』を推します。
主人公「私」を通して、読者も自身の人生を考える奥行きがあったからです。
『ねむり』のあらすじはこんな感じ↓
ある夜、主婦である「私」が寝ている足元に、不気味な老人が現れる。夢か現実か定かでないが、その夜をきっかけに「私」は眠れなくなる。何日も眠っていないのに、眠たくない。眠たくないどころか、集中力は上がり、肉体も若さ・美しさを取り戻す。小説を読みたい、お菓子を食べたい、泳ぎたい。何かが決定的に変わってしまった「私」に待ち受けるものは…
『パン屋を襲う』では、パン屋を襲撃することで「呪い」をかけられました。
一方、『ねむり』の主人公「私」は、日常生活を送る中で、知らず知らずのうちに「呪い」にかけられていたのかもしれません。
読んでいて感じるのは「もしかしたら自分もそうなのかも」という不安感と共感。
「傾向的消費」など、やや哲学的というか文学的で難しい表現が出てくるので、初めて村上作品を読むかたは戸惑ってしまうかもしれません。
ただ、続きが気になって一気に読み進められる短編ですよ。

結末は「どういうことやねん?」と首をひねりたくなるかも
村上春樹さんの小説って読んだ次の日くらいに、「あ、そういうことか」と、突然ひらめいたり、腑に落ちたりすることがあります。
そういう経験ができるのも、村上作品の素敵なところです。
※『ねむり』の考察・レビュー記事はこちらです↓
3位『バースデイ・ガール』
4作品の中で、カット・メンシックさんのイラストが最も美しい(と私が感じる)のが『バースデイ・ガール』です。
赤にゴールドという、うっとりと見入ってしまいます。
あるイラストの中に、村上春樹さんも登場するのも必見です!
『バースデイ・ガール』のあらすじはこんな感じ↓
20歳の誕生日にウェイトレスのアルバイトに行かなければならなくなった「彼女」。顔を見せることのないレストランのオーナーに、食事を届けることになった。姿を見せた老人は、彼女の誕生日に乾杯し、彼女の願いを1つ叶えてくれると言います。彼女はある願い事をしました。
最後まで、「彼女」の願いごとが何だったのかは明かされません。
一体「彼女」は何を望んだのか、考察がはかどる1冊です。
だからなのか、『バースデイ・ガール』は中学3年生の教科書に載っていたことがあります。
また、村上作品ではやたらビールを飲んだり、いきなり性行為が始まったりしますが、『バースデイ・ガール』はそうした表現がないのも教科書に乗せやすかった理由かもしれません。

『ノルウェイの森』は教科書には載せられない…
村上さんの小説はストーリーのおもしろさだけでなく、その文体も特徴的です。
「あ、村上さんっぽい」と感じる独特の表現にも、世界中の人が魅了されています。
「私が言いたいのは」と彼女は静かに言う。そして耳たぶを掻く。きれいなかたちをした耳たぶだ。
『バースデイ・ガール』より引用
ストーリーを楽しみながらも、村上春樹らしい表現や世界観を『バースデイ・ガール』で触れることができます。
※『バースデイ・ガール』の考察&レビュー記事はこちらです↓
4位『図書館奇譚』
第4位にしたのは、『図書館奇譚』という短編小説。
『図書館奇譚』のあらすじはこんな感じ↓
本を返しにきた少年「ぼく」は、謎の老人によって、図書館の地下に閉じ込められてしまう。不思議な美少女と、羊男とともに、新月の夜に図書館の地下から脱走することに。
全体的に重くて暗い小説です。
個人的に『パン屋を襲う』のようなクスッと笑ってしまう小説が好きなので、『図書館奇譚』を第4位としました。
が、村上春樹作品の重要人(羊)物である「羊男」が登場します。
ですので、「羊男に会えるので『図書館奇譚』が好き」という村上春樹ファンもいるかもしれません。
実際、日本以外でも『図書館奇譚』は人気のようです。
ちなみにこの作品はなぜか、デザイナーやイラストレーターの創作意欲をそそるらしく、現在アメリカとイギリスとで、それぞれ異なったデザインでの『図書館奇譚』絵本化プロジェクトが進行している。
『図書館奇譚』あとがきより引用
主人公の「ぼく」は図書館で会った老人の容姿について「もちろん人好きずきだ。他人が口を出す問題じゃない」と言っています。
同じように、本の好みについても「もちろん人好きずきだ。他人が口を出す問題じゃない」です。
私の勝手なランキングは気にせずに、『図書館奇譚』も読んでみてくださいね。
※『図書館奇譚』の考察&レビュー記事はこちらです↓
まとめ:村上春樹&カット・メンシックの短編4作品【おすすめランキング】
村上春樹さんとカット・メンシックさんの短編4作品を紹介してきました。
どの作品でもカット・メンシックさんの美しいイラストと、村上さんの世界観を味わうことができます。
村上春樹さんの文章は、初めて読むと難しく感じてしまうかもしれません。
でも、何作品か読んでいるうちに、だんだんとクセになってきます。

あるいは、そうでないかもしれない
みなさんが素敵な本に出会うきっかけになれば幸いです!