こんにちは、管理人のひかるです。
背筋さんの2作目『穢れた聖地巡礼について』を読みました。
人がたくさんいる通勤電車で読んでいたのですが、最寄り駅を降りて夜道を歩いていると、蒸し暑い季節なのに、なぜか鳥肌が立ちます。
本全体から立ち上る不吉さというか、禍々しさというか…
- これから本書を読みたい人のための紹介(※ネタバレ無し)
- 本書を読んだ人向けの考察(※ネタバレ有り)
を書き残しておきます。
この記事を、見つけてくださってありがとうございます。
『穢れた聖地巡礼について』はこんな本(※ネタバレ無し)
背筋さんの第1作『近畿地方のある場所について』が、2025年8月に映画化されます。
映像化をきっかけに、この第2作『穢れた聖地巡礼について』を読まれた(これから読まれる)かたも多いかもしれません。
あらすじは、
幽霊を信じない心霊スポットYouTuber池田と、フリー編集者の小林が、本を出版するために取材を始める。本当に「見える」宝条も合流し、有名な心霊スポットである「変態小屋」「天国病院」「輪廻ホテル」の謎を追っていく。
というもの。
また、第1作の『近畿地方のある場所について』と同様に、モニュメンタリー形式でストーリーは進んでいきます。
「モニュメンタリー」は、フィクションだけどドキュメンタリーのように演出する方法ですね。
独白や記事、掲示板の投稿などを使うことで、「実際にありそう」「自分も巻き込まれそう」と感じさせられます。
みなさんの感想はいかがだったでしょうか?
私の率直な感想は…

『近畿地方のある場所について』よりも怖くなかったな
です。
1作目は、どの章にも不気味な小道具が散りばめられていて、考察のために読み返す気になれませんでした。
でも、今作はそれほど怖い場面が多くなく、気になった謎を解くために読み返す気力がまだ振り絞れます。
また、『近畿地方のある場所について』が怖かったので、2作目に対しても身構え過ぎたのかもしれません。
小林・池田・宝条の3人の会話で場面が進行していくことが多く、特に宝条の明るい関西弁が、不吉さをやや薄めてくれていたようにも感じます。
※『近畿地方のある場所について』のレビューはこちらです↓
第1作には、単行本の最後に「袋とじ」がついていました。
『穢れた聖地巡礼について』には、そういった付録はついていませんでした。
ただ、カバーを外すと、ドッキリ系ホラーになっているのでご注意ください。
『穢れた聖地巡礼について』の謎を考察(※ネタバレ有り)
ここからは『穢れた聖地巡礼について』の気になったところを、再読して解き明かしていきます。
ネタバレしてしまうので、これから読む方はご注意ください。
「穢れた聖地」とは何か?
読んでいると、「生まれ変わり」に関するエピソードが多いことに気づきます。
タイトルの「穢れた聖地」というのは、輪廻転生にまつわる土地だと思われます。
心霊スポットとして登場する「変態小屋」、「天国病院」、「輪廻ホテル」も、その場所がきっかけになって、輪廻が起こっていますね。
1番最後に『日本民話全集~六部殺しの伝承~』という節が書かれています。
六十六部とも呼ばれる彼らは、修行僧です。全国六十六か所にある寺社に、写経した六十六部のお経を納める旅をしていたため、こう呼ばれています。
『穢れた聖地巡礼について』より引用
信心を深める宗教者にとどまらず、一般人が自ら犯した罪に対する贖罪の目的で巡ることもあったそうです。
今でも残っている寺社もあれば、もう何か別の建物になっている寺社もあるのでしょう。
その寺社や跡地は、いわゆる不思議な力が集まるパワースポット・心霊スポットになった(小屋、病院、ホテルとか)。
小林の言う「ゼロ磁場説」だと、ホラー小説としては興ざめですよね。

小林にとっては「ゼロ磁場説」は、池田への呪いの1つのようですね
「風船男」は何者なのか?
頭が異様に大きい怪異「風船男」が、今作のポイントになります。
「風船男」は、輪廻している途中の姿だと思われます。
第4章で「敬一」という人物の彼女が、輪廻していくシーンがありますね。
私は巡った。昔、神様がいた場所を。今や、宿痾たる人間の欲で穢れた聖地。その穢れで脳漿を満たし、罪を贖うことで、清麗な私として生まれ直すために。(中略)頭が大きくなったから歩きにくくなっていたけれど、目も口も大きくなれて、髪をなんとなくたくさん抜いた。
『穢れた聖地巡礼について』より引用
この部分からも、「穢れた聖地=かつての寺社」だったことが読み取れます。
また、聖地を巡礼することで、「穢れで脳漿を満たし」、つまり、頭が大きくなるのかもしれません。
そして、頭が肩幅ほどに大きくなって歩きにくい、目も口も(その割合が)大きい、髪が少ない。
これって、まるで赤ん坊、幼児の姿です。
このように聖地を巡礼して、頭が大きくなって胎児に戻る、つまり、輪廻転生を果たす。

聖地を穢したのは人間なんやな
天国病院(穢れた聖地)で肝試しをした若者たちは、風船男と出会ってしまいます。
きっと彼らは、聖地で輪廻転生の途中の姿を目撃してしまったのでしょう。
輪廻転生の法則性について
いくつかのエピソードを通して、輪廻に法則があることがわかってきます。
- 呪われた人間は、呪った人間の子として転生する
- 輪廻の過程で「風船男」に呪い方を教わる
- 子には前世の記憶が残っている
- 呪った人間はその子を育てられなくなる
- 生まれ変わった子は次の人間を呪う
涼子は、寝取った幸江の子として生まれ変わり、幸江は育児放棄してしまいます。
そして、子どもは「嫌なこと」を口走るようになりました。
天国病院で律子に呪いをかけられた祖母は、ひ孫として生まれ変わりました。
三歳のその子は、何かを言いたげに母(律子)を見つめます。
また、律子自身は養子であり、本当の両親には育てられていません。
律子もまた呪いをかけられて生まれ変わってきたということでしょう。
不意に男が振り向く。大きな大きな、男の頭が眼前に迫る。それは、小さい頃、夢のなかで私を追いかけてきた、死神だった。(中略)いつしか、祖母の耳元でささやいていた。何度も、何度もささやいた。死神の言うとおりに。
『穢れた聖地巡礼について』より引用
死神、つまり、輪廻のどこかで出会う「風船男」に呪い方を教えてもらうようです。
そのときには律子も輪廻の途中であり、「風船女」だったのかもしれません。
敬一という人物も、幼いころに何かを口にし、両親から疎まれ(恐れられ)ている様子。
付き合った彼女に呪いをかけ、彼女は敬一の子どもとして生まれようとしていました。
輪廻は食い止められるのか?
このように呪いは、生まれ変わることによって続いていきます。
呪い輪廻を止める方法はあるのでしょうか?
幸江という女性は、育児放棄という方法で輪廻を食い止めました。
でも、ほんとうに輪廻を止められたのかは定かではありません。

娘はまた生まれ変わってくるかもしれませんから
チャンイケは、宝条の実家でお祓いをしてもらいました。
池田が、宝条の父親に言われたことについて、語っていました。
「あなたは業を背負っているって(中略)お祓いはするけど、それは、優子の霊に対してじゃなくて、僕の罪を祓うって。だから、自分の罪ときちんと向き合いなさいって言われました。あと、誰かを恨んだりしてはいけないって」
『穢れた聖地巡礼について』より引用
池田自身の生い立ちが書かれていましたが、どうやら池田自身も輪廻しているようです。
宝条の実家でお祓いしてもらって、その「宿業(=呪い)」と解けたのでしょうか?
でも、ラストシーンで池田は冗談とは言いつつも、鈴木優子への呪いの言葉を口にしてしまいます。
また、池田に電話がかかってきちゃったんですよね。
「『あなたの番』って――」
『穢れた聖地巡礼について』より引用
まとめ:背筋さん第2作『穢れた聖地巡礼について』を怖々考察【書評11】
幸江の娘、律子の娘、敬一が親に何といったのかは、結局明かされませんでした。
たぶん、その言葉が最も怖いはずだったんですが…
そこは「読者が自分で考えて、勝手に怖がってね」と背筋さんは考えたのかもしれません。
幸江の娘が言ったはずの言葉は、生前の涼子の言葉からある程度予想できます。
「許さない」
『穢れた聖地巡礼について』より引用
だったのかなと。
それとも池田にかかってきた電話と同じ「あなたの番」だったのか…
この『穢れた聖地巡礼について』も、いずれ映画化されそうな気はしますね。
映画を見るのも覚悟と勇気が必要そうです…